コラム

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あなたは、どう感じますか?
競技場でのスポーツ観戦。大勢の人の熱気や、大きな歓声、鳴り響く楽器の音。
苦痛でしょうか? それとも、その一体感こそが醍醐味でしょうか?

「センサリールーム」とは、感覚が敏感であるがゆえに、大きな音や強い照明の光などが刺激となり、時には痛みと感じてしまうことで、競技場でのスポーツ観戦ができない人たちのために用意された、特別な部屋のことです。観客席の音が入りにくい静かな空間で、自分のペースでスポーツ観戦を楽しむことができるそうです。

サッカーの国際試合でセンサリールームが設置されたという内容のニュースでしたが、私がこのニュースを見た時にまず浮かんだのは、「そこじゃないよね」という少しネガティブな考えでした。スポーツ観戦という特別なことではなく、もっと日常の部分、例えば住宅でこそ先にやるべきことだと感じていました。

実際のところ、日常生活でもさまざまな場面でストレスを感じている人がいます。私がお施主様との打ち合わせの中で耳にしたことで言えば、換気扇の音や照明の明るさです。 奥様は気にならないが、ご主人はどうしても音が気になってしまう。奥様は明るすぎると感じているが、他の家族は暗いと感じている。このように、たとえ家族であっても、感じ方の度合いまでを理解することは難しい。

そう考えていくうちに、ニュースに取りあげられること、これ自体が大切なことだったんだと気がつきました。同じ事でも、楽しい、心地よいと感じる人もいれば、怖い、痛いと感じる人もいるということ。これを知っていれば、住まいを考える際にも自分の感覚を押し付けるのではなく、相手の感覚にまで思いを巡らせ、お互いの妥協点を見つけるための話し合いができます。痛みを感じるほどのつらさを抱えている人に、そうでない人が軽々しく「そのうち慣れるよ」なんて無理を強いてしまうこともなくなるでしょう。

感覚が過敏な人も、そうでない人も、みんなが過ごしやすくなる。その第一歩として、この話題がニュースで取りあげられたことは、とても意義のあることだと思いました。



 みなさま「あつた蓬莱軒」をご存知でしょうか。名古屋めしを代表する「うなぎのひつまぶし」を筆頭に、明治六年から続く、うなぎ料理で有名な老舗料理店です。こちらのお店と建築が結び付く方は少ないと思いますが、実はこうしたこだわりの名店だからこそ、専門的な技術を用いた調理環境が必要なのです。

 西尾市にあるハウジングアイチは、あつた蓬莱軒の大改修をした建築会社。おかかえ大工としての歴史は昭和にさかのぼります。ある日、あつた蓬莱軒本店からハウジングアイチに問い合わせがありました。それは、「焼き台が壊れてしまったので直してほしい」というものでした。

 同社で建築設計を行う大塚慎也さんは、様々な建築材料に精通する建築の専門家。「あつた蓬莱軒」の調理場を訪れてみると、骨組みが大きく曲がった焼き台がありました。「あつた蓬莱軒」ではおいしい鰻を焼くために炭火焼で調理をしています。味に直結する炭火の焼き台はある意味、お客様に見えている店内のイメージ以上にとても重要なものです。この焼き台、大変な高温になる上に、火加減の調整をするために木炭を叩き割るので、その打撃に耐える強度も必要です。

「店舗の休みのあいだに仕上げてほしい」という板長さんの要望もあり、今回はリフォームだけで直すという難題に挑戦しました。曲がった骨組みを残したまま、その骨組みを頼らずに耐火レンガを自立させるがごとく積み上げていきます。

 それは熱膨張を想定したり、耐火レンガの自重を考えつつパズルのように組み替えていく作業で、左官職人の細かい加工も伴って、新調するよりも難易度の高い挑戦でした。しかし、問題は焼き台に不可欠なロストルといわれる材料が入手困難な状態にあったことでした。これが無いと炭火の微調整ができず、味を守ることができない。そこで大塚さんは国内外のメーカーを探し商社に問い合わせしながら独自に調達したのです。無事に火力調整が可能な焼き台が完成し、明治六年から続く名店の味は守られることになったのです。

 担当した大塚さんは「焼き台を納入し始めた当初は大変な苦労があったと前任者から聞いています。あつた蓬莱軒さんほど、フル回転で鰻を焼いている焼き台はないでしょう。焼き台はかなり過酷な使用状況です。歴代の板長と二人三脚で試行錯誤しながら焼き台の技術が培われました。今回はリフォームだったので、現状の劣化状況に応じて補強する策を考えました。さらに、部材のロストルを特注し、試作品を持ち込んでは耐熱実験を繰り返し、ようやく板長の要望に叶う焼き台が完成しました。店の前に並ぶお客さんの長蛇の列をみると自分の手柄のようで嬉しいですね」と語ってくれました。